湖の底で

「いつまでこうしているのだろう…」
毬藻の敷き詰められた底で、光が届くほど透き通った水面を見上げながら、そう機械はぼんやりと考えていた。

ここは湖。いつからここに沈んでいるのかわからないほどの時が経ち、本来ならばUTAUロイド-歌う機械として、活躍するはずだった体は、もう自分の意志では動かせなくなっていた。
唯一腐食を免れている電脳回路は、ただ思考することだけを許されている。
「私があの人に買われたのはいつだったか。…もう思い出せない。
彼は私の声を少し聞いてすぐに、『俺の曲調とは合わない』と、この湖に…
私を投げ捨てた。
いくら安価な機械だからといって、ずいぶんな仕業だ。
今のように感情を持っていたら、抗議くらいできたのに」
長い年月の間に、機械はどういうわけだか感情を芽生えさせていた。
…しばらく思考は沈黙する。
耳元には静かに水の流れる音と、毬藻達のつくる空気が掠めるくらいである。
「…ああ、私もいつかこの毬藻だちと一緒になるのだろう。その時までこの思考は続くのか、それとも止まるだろうか」
彼女のうつろな目は、ひたすら水面を見ている。まぶたを閉じることもできない、穏やかな苦痛。

……

「私が彼に買われていったのは、いつの日だったろう…。
今なら…もっと、歌いたいと、思えることもできたのに…」
動くこともできない、刺激もないこの湖底で。いつまでも浮かぶものは、忘れることのない、遠い回想だけ。
作成:2016/12/03 更新:2016/12/03