物置の歌声

無名の作曲家であるその男が突然家に連れ帰ってきたのは、小さなUTAUロイドでした。
ボーカロイド歌機は庶民が持つにはあまりにも高級であり、一般的ではありません。廉価で性能もボーカロイドに劣らないこのブランドは、個人で歌唱機器を持ちたい人に広く支持されているのでした。そんなUTAUロイドの1タイプは、鮮やかな瞳にブロンドの少女モデル、<アリカ>です。
作曲家はアリカに自身をパパと呼ばせ、まるで本当の娘のように扱いましたが、男の妻は「機械が歌うなんて気味が悪い」と言って、アリカに近づこうともしなければ、歌声にさえも耳を塞ぎます。作曲家はアリカのために、いくつかの歌を作り、アリカはそれを歌いました。
しかし、ある日作曲家は死んでしまったのです。死因はガンでした。余命があるうちに、作ることのできなかった子どもとの思い出が欲しくてアリカを買ったのでした。
悲しみ、喪に服した婦人の横で、アリカは歌を口ずさんでいました。その声に苛立った婦人は、アリカの首根っこを掴み、髪飾りで眼孔を突いてアイセンサーを粉々にしてしまいました。そして恐ろしい相貌となったアリカの目に包帯を被せ、物置に閉じ込めました。視界のなくなったアリカはやがて大人しく物置のすみに座り、ひっそり歌を歌い続けました。かつて父が作ってくれた、アリカのための歌を。
時が過ぎ、婦人は物置に捨てたアリカのことなどすっかり忘れていました。忘れられたアリカは今でも歌い続けています。半永久有機電源が切れるまで、いつまでも…。

その家の前を通ると、今日も物置からかすかな少女の歌声が聞こえるのです。
作成:2016/12/03 更新:2016/12/03